「高齢になりそろそろ農業から引退したいが、子どもは別の職業に就いていて農業を継ぐ予定がない。農地はどうしたらいいのだろう。」
「農業をしていた親が亡くなり広大な農地を相続したのだが、都会に住んでいるので使う予定がない。農地をどうしよう。」
このような悩みを聞くことがあります。
使う予定のない農地、放っておいていいのでしょうか。
保有する不動産には固定資産税がかかりますが、農地の税金は宅地より優遇されて安くなっています。とはいえ毎年払うとなるとかなりの金額になります。
また、雑草が生えたまま放置してしまうと隣接する農地に迷惑がかかるため、使用しない農地でも、草刈りなどの維持管理を行う必要があり、そのための費用がかかります。
東北の田舎の広大な農地を相続して、固定資産税の他に、年2回春と秋に除草を依頼する費用が毎年20万円以上かかるという東京在住の方の例もあります。
いっそ売ってしまいたい。そう思っても、実は農地は宅地などの土地売却とは違い、簡単にはできません。ここでは、農地の売却がなぜ難しいのか、そしてできるだけスムーズに農地を売却する方法について説明します。

なぜ農地は自由に売れないか?

農地を簡単に売却できないわけ

土地には、用途というものが決まっています。例えば、「宅地」としての地目が決まっている土地には、大きな工場は建てられないなどの制限があります。
同じように地目が「農地」の場合は、農業にしか使用することができません。農地を使わないからと駐車場にしたり、家を建てたりしてはいけないのです。

なぜ農地の売却は難しいのでしょうか。
2015年の日本経済新聞の記事によると、日本で農業にたずさわっている人の減少を食い止めることができていない状況がわかります。農林水産省の調査によると、2015年時点の農業にたずさわっている人の数は209万人で、5年前より2割減っています。特に、高齢を理由に農業を続けることを断念する人が多く、農業に就いている人の平均年齢を見ると、5年前から0.5歳上がって66.3歳になったということです。
一方、日本の食料自給率を見てみましょう。
食料自給率は、国内で消費される食料が国産でどの位賄えているかを示すものです。
品目ごとに出した自給率の他に、食料全体を一定のものさしで算出する総合食料自給率があります。この総合食料自給率は、熱量換算で出したカロリーベースと、金額換算で出した生産額ベースの2つで算出されます。
2つの指標は長期にわたり低下傾向にあり、平成29年度の農林水産省「食料需給表」によると、日本の総合食料自給率は生産額ベースで65%、カロリーベースで38%でした。
このカロリーベース38%という数字は、先進国の中では最低水準となっています。
国土の狭い日本で農地を簡単に売却できるようになってしまうと、農地として利用できる良質な土地が失われてしまい、日本の食料自給率がさらに下がるため、農地の売却には一定のルールが設けられているのです。

農地売却にはルールがある

まず、農地を売却する場合は、その地区の農業委員会に許可を取らなければならないと農地法で定められています。さらに、農地法では売却する農地の耕作面積などに一定の基準を設けており、それらを満たさなければ売却することができません。
また、農地は、基本的には農業に従事している人以外には売却できないことになっています。万が一、農地を勝手に売却してそこに家が建ってしまったら、罰則を受けることになります。
しかし、前にも説明したように農業従事者が減る日本で、農地を農地として売却するのは至難の業です。農地を宅地や駐車場など、農地以外に利用できるような地目にして、農業従事者以外の人へ売却する方法はないのでしょうか。
ここでご紹介するのが、土地の転用です。国や農業委員会の許可を取って、農地以外の地目に転用してから売却をするという方法があります。

転用で売れる農地と売れない農地がある?

農地の売買契約は、農業委員会の許可が得られることを前提として締結されます。
同じ農地としての売却には農地法第3条による売買許可、農地以外の利用のための売却については農地法第5条による転用許可を取る必要があります。
農地も転用すれば簡単に売却できそう…。
そう思うのは早計です。申請をしても、全ての農地の転用が許可されるわけではありません。農地の転用には立地基準、一般基準という2つの基準があり、これをクリアしなければならないのです。

農地の転用~立地基準

農地転用の立地基準は以下の通りです。農地としての条件がよく、大規模農地にあれば不許可になる可能性が高く、駅に近いとか、周りが住宅街といった状況であれば許可されやすい傾向があります。
保有する農地がどの区分に当たるか、まずは確認してみてください。

区分 営農条件、市街地化の状況 許可・不許可
農用地区域内農地 市町村が定める農業振興地域整備計画において、農用地区域とされる区域内の農地 原則不許可
※市町村が定める農用地利用計画において指定された用途(農業用施設)等のために転用する場合、例外許可
甲種農地 市街化調整区域内の土地改良事業等の対象となる農地(8年以内)等、特に良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
※土地収用法の認定を受け、告示を行った事業等のために転用する場合、例外許可
第1種農地 10ha以上の規模がある一団の農地、土地改良事業の対象となった農地等良好な営農条件を備えている農地 原則不許可
※土地収用法対象事業等のために転用する場合、例外許可
第2種農地 鉄道の駅が500m以内にある等、市街地化が見込まれる農地又は生産性の低い小集団の農地 農地以外の土地や第3種農地に立地困難な場合等に許可
第3種農地 鉄道の駅が300m以内にある等、市街地の区域又は市街地化の傾向が著しい区域にある農地 原則許可

農林水産省HP農地転用許可制度より

農地の転用~一般基準

許可申請の内容について、申請目的実現の確実性(土地の造成だけを行う転用は、市町村が行うもの等を除き不許可)、被害防除措置等について審査し、適当と認められない場合は、許可できないこととなっています。

一般基準では、農地を転用してもその用途に使うことが確実でない場合や、農地の面積が利用目的に対して適正でない場合、また周辺の農地に影響を及ぼす使い方の場合は認められないこととなっています。また、農地の転用はあくまで一時的なものとされているため、農地として回復できないような状況での利用の場合も認められません。
もし、農地の持ち主が、「いつか買い手が見つかったらすぐ売れるように、農地から宅地に変えて造成しておきたい」と考えて申請したとしても、このような不確実な計画では認められません。

農地を転用して売却する場合

農地の転用を申請する場合、転用して利用するその主体は買主となるため、売主と買主両方が申請者となる必要があります。つまり、「いつか売りたいから宅地に転用しておく」という計画性のない申請はできないことになります。
申請にあたっては、立地基準と一般基準を審査されたのちに、転用許可、不許可が決まります。
転用申請の手続きの流れは土地の広さなどで違ってきます。

農地開拓

農地の転用と売買契約

農地売買では農地転用の申請をする際には、買主も申請に加わる必要があるので、転用申請前に買主を見つけ、土地の売買契約をしておかなければなりません。
しかし、転用前に契約をしても、転用が不許可になれば売買は成立しません。転用を前提とした契約内容として、許可が出なかった場合の売買は無効となるような契約を交わします。当然、転用不許可により売買契約が失効しても違約金は発生しませんし、手付金についても不許可であれば全額返還されることになります。
また、農地の売買契約では、一般の不動産取引では行われない「仮登記」を行う事例が多く見られます。これは、転用許可が出た後の買主の所有権移転に関わる権利を保全するために行うものですが、仮登記をしたとしてもその所有権を取得したことにはなりません。
正式な所有権移転登記には、転用許可後に農業委員会から交付される許可指令書が必要となります。

農地は高くは売れない?

もし、売却する農地が市街地にある、新幹線の沿線にある場合は、宅地に転用して売却できる確率は高くなります。もし保有する農地が市街地にあるのなら、売却を積極的に考えてみてもいいのではないでしょうか。ただし、宅地に転用した場合、地質改良費や造成費などがかかる場合もあります。それらの経費を差し引くと、思ったほどの値段では売れないという場合もあります。一般の不動産売却の相場とはかなり差が出る可能性があることは、理解しておきましょう。不動産開発業者により大規模な開発が行われる地域であれば有利ですから、地域の情報などを集めてみましょう。

売り手が見つからない農地、どうしたらいい?

売り手が見つからない農地の場合は、どのような利用法があるでしょうか。
近隣で農業を続けている人に貸す、市民農園などにして賃料を取る、農地から転用して太陽光発電を設置して売電する、同じく転用して駐車場にして貸すなどの方法が考えられます。
しかし、農地も駐車場も借り手が見つけなければなりませんし、太陽光発電も今後売電単価が下がっていくことが予想されていますので、初期費用を回収できない不安もあります。
どうしても売却したいのであれば、無料の動産売却の一括査定サービスを利用してみましょう。一括査定サービスは、不動産情報を一度入力するだけで、複数の不動産会社が不動産査定してくれるサービスです。一括査定サービスを提供する会社の中には、地目が農地でも扱っているところがありますので、ぜひ利用してみましょう。