これまで、不動産を相続した場合の税金や相続税計算の元となる不動産の評価方法、そして不動産を売却して現金化してから相続人で遺産分割する換価分割など、相続不動産にかかる税金と、不動産売却して遺産分割する方法について説明しました。
ここからは、不動産をそのまま相続した場合の賢い売却方法について説明します。
相続したが空き家になっている物件や土地は早く売るべき?
不動産を相続したが利用する予定がないという場合、そのまま保有しておいても損はないのでしょうか?ここでは、相続で得た土地や住宅など不動産の売却について考えていきます。
相続したが使わない不動産を所有し続けるデメリット
相続した不動産をそのまま使わずに持ち続ける場合のデメリットとしては、以下のようなことが考えられます。
固定資産税が毎年かかる
空き家のままでも、ただの更地であっても、毎年固定資産税はかかります。
使わない不動産の管理の手間や費用がかかる
相続した不動産が空き家のままでも、管理や修繕メンテナンスは必要です。
戸建ての場合は、隣家にはみだして成長する庭の木の枝を切らなければ迷惑になりますし、壊れかけていて台風の時に飛びそうで危険な屋根の補修などはしておかなければ、大きな損害を与えることになりかねません。
不動産が借地の場合、借地料がかかる
相続した家が借地に建っている場合は、住んでいなくても地主に借地料を支払う必要があります。
マンションやビルの場合は管理費や共益費がかかる
相続した不動産がマンションやビルの場合、空室であっても管理費用や修繕積立金は毎月支払わなければなりません。
解体費用がかかる
相続した戸建住宅を長期間持ち続けた挙句、売却しようとすると、古くなった家屋は売却の邪魔になります。その場合、古家を解体して更地にしてから売ることになるかもしれません。そうなると、解体費用がかかってしまいます。
古くなった不動産は価格が下がる可能性が高くなる
マンションや戸建てなどはよほど人気物件でない限り、年数が経つほど価格は下がっていきます。
以上のように、使わない不動産を持ち続けるのは、様々なデメリットが考えられます。
ただし、相続したものが土地であれば、持ち続けることで価格が上がる場合もあります。売却のタイミングはいつがいいかを考えるのはとても大切です。
相続した不動産を売却する場合は、無料で複数の不動産会社に査定依頼ができる一括不動産査定サービスをおすすめします。このサービスを利用して、提出された査定見積書を比べて、高く売却してくれる仲介業者を見つけましょう。
売るタイミングによっては税金の控除や特例がある
不動産を売却する際、譲渡所得税は保有期間やどのような不動産かなどで、特例や特別控除があり税率が変わってきます。少しでも高く売りたいと考えるのなら、それぞれの特例や控除の条件をよく理解して、売却のタイミングを検討する必要があります。
長期譲渡所得と短期譲渡所得
保有する不動産を売却するにあたって、その不動産を譲渡した年のはじめ(1月1日)の時点で保有期間が5年より短い場合は、短期譲渡所得とみなされ、保有期間が譲渡した年のはじめ(1月1日)時点で5年を超える場合は長期譲渡所得とみなされます。
この制度は、バブル時代にあった、短期間に土地を買っては売り利益を得る「土地転がし」を防止するために作られました。
この保有期間の計算ですが、土地と建物とはそれぞれ別に計算されますので、土地が長期譲渡所得で建物が短期譲渡所得という場合もあります。
相続で不動産を保有している場合、保有期間のスタートは相続開始ではなく、被相続人(亡くなった人)がその物件を保有しはじめた時となります。
長期・短期それぞれの税率は以下のようになります。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 15% | 5% | 20% |
短期譲渡所得 | 30% | 9% | 39% |
※2013年から2037年までの間は、上記の他課税のほかに、復興特別所得税(基準となる課税所得税額×2.1%)が課税されます。
例-1
2013年8月1日に取得し、2018年11月1日に土地売却をした場合、実際の保有期間は5年3か月となりますが、2018年1月1日時点で計算すると4年5か月となり、短期譲渡所得とみなされます。
例-2
2012年12月1日に取得し、2018年11月1日に土地売却した場合、実際の保有期間は5年11か月となりますが、2018年1月1日時点で計算すると5年1か月となり、長期譲渡所得とみなされます。
課税所得税は以下の計算で求められます。
例えば、課税譲渡所得が1000万円だった場合
200万円×0.021=4万2千円(復興特別所得税)
短期譲渡所得の物件では
390万円×0.021=6万3千円(復興特別所得税)
このように、保有期間で税金にはかなりの差が出ることがわかります。
なお、売却した日については、売買契約を締結した日か引き渡し日のどちらかから選択することができます。
相続税の取得費加算の特例
相続した不動産などの財産を相続後3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を売却時の譲渡所得税から控除して節税できるのが、相続税の取得費加算の特例です。この特例を受けるためには、以下の条件があります。
- 相続、遺贈によりその財産を取得している
- その財産を取得した際に相続税が課税されている
- その財産の相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過するまで(つまり相続開始の翌日から3年10か月以内)に譲渡している
被相続人の居住用財産(空き家)を売った時の特例
居住していた不動産を売却した場合、譲渡所得(売却益)が出ても3000万円まで控除できる「3000万円特別控除」があります。
この特例は本来マイホームについて認められる特例ですが、2016年4月1日から2019年12月31日までは、亡くなった親の家など被相続人が居住していて、空き家となった不動産を相続した場合にも、一定の条件を満たせば3000万円の控除が認められます。
その条件は以下の通りです。
被相続人居住用家屋と認定されるための3つの条件
- 1981年5月31日以前に建築されたこと
- 区分所有建物登記の建物(マンションなど)ではないこと
- 相続の開始の直前に被相続人以外の人が居住していなかったこと
特例を受けるための条件
- 売主は相続又は遺贈で被相続人が居住していた家屋や家屋の敷地を取得したこと
- 相続時から譲渡するまでの間に事業、貸付け、居住に使用されていないこと(空き家であること)
- 一定の耐震基準を満たしていること。満たしていない場合は更地にしていること
- 相続開始から3年を経過する日が属する年の12月31日までの譲渡であり、かつ平成31年12月31日までの譲渡であること
- 売却金額が1億円以下であること
この特例には細かな要件や手続きがありますので、詳細は国税庁の被相続人の居住用財産(空き家)を売った時の特例
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
をご参照ください。
なお、この3000万円特別控除と相続税の取得費加算の特例は併用できませんのでご注意ください。
限定承認は注意!みなし譲渡所得課税について
被相続人からの相続は、プラスの財産(遺産)だけでなくマイナスの財産(負債)もあるので、ありがたいものばかりではありません。相続人は被相続人の財産を相続するかどうか、決める権利があります。
相続の方法は以下の3つから選択することができますが、不動産を相続する場合は注意が必要です。
相続方法の3つの選択
単純承認
被相続人のプラスの財産(資産)もマイナスの財産(負債)もすべてを引き継ぐことをいいます。多くの場合こちらが選ばれます。
限定承認
資産の金額を超える負債は引き継がないことを条件に、被相続人の資産と負債を引き継ぐことをいいます。財産と借金のどちらが多いかわからない場合には、こちらを選ぶことが多いです。
相続放棄
被相続人の資産も負債も一切引き継がないことをいいます。財産よりも明らかに借金が多い場合、こちらを選べば負債を負うことはありません。
親が亡くなり、親の財産や負債がわからない場合、一見限定承認が安全のように思えますが、限定承認には一定の条件がある上、思わぬ落とし穴があることも。
限定承認をするにあたっての注意点
限定承認を選ぶにあたっては、以下のことを守る必要があります。
被相続人の死後、資産に手をつけられない
被相続人が死亡したことはよほど有名人でなければ銀行はすぐに把握はできませんので、残された親族で葬儀費用が捻出できない場合などは、銀行口座が凍結される前に被相続人のカードで現金をおろすケースがよくあります。しかし、限定承認を選ぶ場合、これをやってしまうと一切認められなくなります。つまり、限定承認を選ぶのなら、被相続人の死後、資産には一切手をつけられないのです。
限定承認の申請条件がある
限定承認を選ぶ場合は、必要書類を揃え相続人全員が共同で、相続開始があった日から3か月以内に申請しなければなりません。
財産は原則として競売に出されて負債に充てられる
不動産などの財産は、すべて売却されて換金され負債に充てられます。どうしても自宅など手放したくないものがあった場合は、相続人がその分の金額を払うことで免れることもできます。
不動産などの遺産がある場合譲渡所得税がかる
被相続人の遺産の中に不動産などの現金以外の財産がある場合、売却しなくても一旦売却したと考えて売却益に対して税金がかけられます。実際に譲渡もしておらず、利益も出ていないものに税金がかかる、これをみなし譲渡所得といいます。このみなし譲渡所得については次でくわしく説明します。
準確定申告と限定承認とみなし所得について
相続人は準確定申告といって、被相続人が亡くなった年の1月1日から死亡した日までの被相続人の所得金額や税額を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に確定申告をして納税しなければなりません。
単純承認や相続放棄を選んだ場合の準確定申告では、通常の確定申告と同じ所得税の申告でかまいません。しかし、限定承認を選択して、土地などの不動産や株式など現金以外の財産がある場合には、それらを相続時に相続人に譲渡したとしてみなし譲渡所得の申告もしなければならないのです。
例えば、アパート経営をしていた亡き父の財産を単純承認、あるいは相続放棄した子ども(相続人)は、準確定申告ではアパート経営の収益についての所得税を申告すればいいのです。しかし、限定承認をすると、アパート経営に関する確定申告にプラスして、被相続人である父から相続人である子どもへ、経営していたアパートの譲渡があったとみなされ、譲渡税の計算もしなければなりません。
この準確定申告で申告される所得税は、相続税法では被相続人の負債とみなされます。限定承認で被相続人の遺産より負債が多い場合、遺産を超える負債の部分は切り捨てとなりますので、みなし譲渡所得にかかる納税は発生しません。
しかし、被相続人の負債よりも遺産が多い場合、みなし譲渡所得で所得税の納税が生じてしまい、その結果相続する遺産が減ることになります。
不動産などの現金以外の遺産も相続する場合は、限定承認の選択はよく考えて決めることをおすすめします。