不動産を所有していると、毎年、固定資産税と都市計画税を納税する義務が生じます。これらの税金(固定資産税等)はその年の1月1日時点での所有者に課税され、1月1日を賦課期日といいます。
もし、その年の途中で不動産売却をして所有者が変わったとしても、次の年の賦課期日(1月1日)にならないと、新しい所有者に納税義務は生じません。そこで、不動産売買では所有者が変わった時点で、その年の残りの期間の固定資産税分(未経過固定資産税)を買主が売主に支払う精算が行われます。
ここでは、不動産売却で必要な確定申告と、この固定資産税の扱いや精算について説明します。
不動産売却で買主から支払われるお金を確認
不動産売却におけるお金の流れはどのようになっているのでしょうか。売主側からその流れを見てみましょう。
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不動産会社による査定(無料)
中古一戸建てやマンション、土地売却などを考えたら、まずは不動産会社に査定を依頼して、いくらで売れるのかを検討するとともに、仲介業者を決めます。より高く売却したい、信頼できる不動産会社を見つけたいという場合は、不動産売却一括査定サービスのサイトを利用することをおすすめします。査定費用は一切かかりません。
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媒介契約締結(無料)
信頼できる不動産会社を見つけたら、媒介契約を締結します。不動産売買の仲介は成功報酬制ですので、この時点で費用は一切かかりません。
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売却活動(広告、内覧:無料)
売却活動は基本的には無料です。ただし、土地売却の測量費用や、不動産会社で用意しているハウスクリーニングなどのオプションサービスを利用するとその料金が発生する場合もあります。
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売買契約締結
- 買主より手付金受け取り
- 不動産会社へ仲介手数料の半金支払い
買主が決まったら、売買契約を締結します。買主から手付金を受け取り、仲介した不動産会社には仲介手数料の半金を支払います。また、売買契約書に貼付して納税する印紙税が発生します。
仲介手数料は法律で上限が決まっており、400万円以上の物件では以下の計算式となります。
不動産の売却金額 × 0.03 + 6万円 + 消費税 = 仲介手数料印紙税額は契約金額によって違います。また、契約金額が10万円以上のものについては、2020年3月末まで軽減税率が適用されます。
印紙税(例) ※()内は軽減税率適用後
500万円超~ 1,000万円以下 … 10,000円( 5,000円)
1,000万円超~ 5,000万円以下 … 20,000円(10,000円)
5,000万円超~10,000万円以下 … 60,000円(30,000円) -
引き渡し
- 買主より残金受け取り
- 住宅ローンの返済
- 不動産会社へ仲介手数料残金支払い
- 固定資産税等の精算受け取り
- マンション管理費等の精算受け取り
- 司法書士への支払い
- 登録免許税の支払い
住宅ローンが残っている場合、買主より残金を受け取ると同時に残債の返済を済ませ、司法書士に抵当権抹消登記を依頼します。抵当権抹消登記には登録免許税がかかります。
また、その年の途中で所有者が変わるため、所有者変更後の固定資産税等については精算を行います。また、マンション売却の場合は月ごとに管理費や修繕積立金を納めていますので、その月の残りの日数分の費用の精算を行います。 -
確定申告
- 所得税等納税(譲渡所得が出た場合)
- 住民税納税
不動産売却の翌年の3月15日までに確定申告を行いますが、譲渡所得が出た場合は、所得税等を納めます。住民税は確定申告後に税務署から市区町村に申告内容が報告され、売却翌年の住民税として課税されます。
確定申告については、次で詳しく説明します。
不動産売却で必要な確定申告について
ここでは、不動産売却に伴う確定申告について説明します。
土地や住宅など不動産を売却した場合、売却した翌年3月15日までの確定申告期間内に税務署で申告を行います。譲渡所得(売却益)が出た場合、所得税や住民税、そして2037年までは東日本大震災の復興のための財源確保を目的とした復興特別所得税も課税されます。
これらの税金は、給与所得などの所得とは別で計算するので、分離課税といいます。
譲渡所得の計算
譲渡所得は売却金額から取得費、売却費用、特別控除額を引いた残額で、0またはマイナスになれば非課税となります。
売却額 | 取得費 |
---|---|
譲渡費用 | |
特別控除額 | |
譲渡所得 |
取得費は売却した不動産を手に入れた時の購入代金や不動産会社に支払った仲介手数料などをいいます。建物に関しては減価償却して計算する必要があります。相続で所有しているため購入金額がわからない、購入した際の領収書などを紛失してしまった、あるいは取得費を計算したら売却額の5%に満たなかったという場合は、売却額の5%を取得費として計算できます。
譲渡費用は売却にかかった費用のことで、不動産会社に支払った仲介手数料や土地を売却する際にかかった測量費、賃貸していた家を売るために入居者に支払った立ち退き料なども含むことができます。
特別控除額は、マイホームを売却した場合に認められる3,000万円控除など条件が合えば適用されます。自分のケースではどの特例が該当するか、どの特例がより節税になるかを調べて控除を受けることで税金を安く抑えられます。
税額の計算
所得税や住民税は、課税譲渡所得金額に税率を掛けて計算します。
税率は、長期譲渡所得か短期譲渡所得かによっても違います。これは、バブル期よく見られた土地転がし(短期間に土地を売ったり買ったりして利益を得る行為)を防止するために、長く保有しているほど有利になるように設けられました。
不動産売却をした年の1月1日時点で、その不動産の所有期間が5年を超えている場合は長期譲渡所得、5年以下の場合は短期譲渡所得となります。
長期譲渡所得 | 短期譲渡所得 | |
---|---|---|
所得税 | 15% | 30% |
住民税 | 5% | 9% |
2037年までは復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が課税されます。
確定申告で利用できる様々な特例
確定申告の際に条件が合えば適用される控除などの特例があります。
どの特例が自分は利用できるか、検討して申告することで節税につながります。
3,000万円の特別控除の特例
マイホームを売却した場合、課税される譲渡所得を計算する際に、取得費や譲渡費用とともに最高3,000万円が控除できる特例です。この特例により、譲渡所得が減らせて節税となります。
譲渡所得-3,000万円=課税譲渡所得金額
なお、譲渡所得が3,000万円以下となった場合、特別控除額は譲渡所得の金額が限度になります。
軽減税率の特例
10年以上所有していたマイホームを売却した場合、3,000万円の特別控除の特例を利用した後の課税長期譲渡所得に対して、軽減税率が適用されます。
6,000万円までの部分 | 6,000万円を超える部分 | |
---|---|---|
所得税 | 10% | 15% |
住民税 | 4% | 5% |
※2037年までは復興特別所得税として基準所得税額の2.1%が課税されます。
買換え(交換)の特例
マイホームを売却した年の前年から翌年までの3年間にマイホームを買換え(交換)、売却価格が1億円以下、売却した不動産の所有が10年超、居住が10年以上などの条件に該当すれば、譲渡益の課税を繰り延べできる特例があります。
この特例は3,000万円の特別控除の特例、軽減税率の特例と選択適用となりますので、どの特例を選択すればより節税となるか検討しましょう。
譲渡損失が出た場合の損益通算と繰越控除の特例
売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるマイホームを売却し、譲渡損失が出た場合、以下の条件に該当すれば、譲渡損失をその年の給与所得など他の所得と合算する損益通算できます。この特例を利用すると、全体の所得を抑えることができ、所得税の節税ができます。また、その年で損失全額が通算できない場合は、翌年から3年間の各年分の所得から繰越控除することができます。この特例は、1年の合計所得が3,000万円以下の年にのみ適用できます。
損益通算の特例の条件
マイホームを売却した年の前年から翌年までの3年の間に新たなマイホームを購入し、年末の時点でそのマイホームの住宅ローンの残債がある場合。
マイホームの売買契約締結日の前日に、そのマイホームの住宅ローンの残債がある場合。
※それぞれ細かな要件がありますので、詳しくは国税庁のウェブサイトでご確認の上、適用が可能か、適用すると節税になるのか、判断してください。
確定申告に必要な書類
不動産売却の確定申告では、どのような書類が必要でしょうか。
基本的に必要な書類
- 確定申告書用紙/申告書B・申告書第三表(分離課税用)
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)/土地・建物用
- 売買契約書、領収証のコピー
- 土地・建物の全部事項証明書
- 不動産会社へ支払った仲介手数料の領収証のコピー
- 測量費や登記費用など売却にかかった諸経費の領収証のコピー
※確定申告書用紙・譲渡所得の内訳書は税務署で入手できます。
また、特例を受ける場合には、追加で以下の書類も必要となります。
3,000万円の控除の特例を受ける場合
- 住民票の除票 (売却後2ヶ月経過した日以降に入手したもの)
買換え(交換)の特例を受ける場合
- 買換えたマイホームの購入明細書
- 先行取得資産に係る買換えの特例の適用に関する届出書※
- 代替資産の取得期限延長承認申請書※
※売却・購入年によって必要書類は違います。
譲渡損失が出た場合の損益通算と繰越控除の特例を受ける場合
- マイホームの譲渡損失の金額明細書(確定申告書付表)
- マイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額の計算書
未経過固定資産税は経費なのか収入なのか?
不動産を所有していると毎年支払い義務が発生する固定資産税や都市計画税ですが、これらの税金は既に説明した通りその年の1月1日(賦課期日)をもって課税されます。
年の途中で不動産を売却した場合、引き渡し日から12月31日までの税金は既に売主が支払っていますが、所有者が変わっているので本来なら買主が負担してもいい税金と考えられます。この部分を未経過固定資産税といい、引き渡し時に買主から売主に固定資産税精算金というかたちで支払いが行われます。
固定資産税は仕訳処理では経費となるため、固定資産税精算金はその返金、つまり経費のマイナスと思いがちです。しかし、実は法的には途中で所有者が変わったとしても、1月1日時点の所有者に納税義務があり、この未経過固定資産税の精算は慣例として行われているにすぎません。そのため、精算金は税法上収入という扱いとなりますので、確定申告の際に売却金額に含める必要があります。
ここを間違えてしまうと、税務署から指摘を受ける可能性がありますので、ご注意ください。