不動産売却に際して、個人で売買するといくつかの税金が課せられます。
売買契約を交わす際に貼る印紙税、住宅ローンを払って抵当権の抹消登記をする際にかかる登録免許税、そして売却益(譲渡所得)が出た場合の不動産譲渡所得税、住民税などがかかります。
一方、法人所有の不動産売却をした場合は、個人の場合とは違う税金を支払う義務が発生します。
ここでは、法人が不動産売却をする時の税金の処理の方法や注意点についてご紹介していきます。
法人と個人では課される税金が違ってくる
個人の場合は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に得た収入を、得た方法ごとに10の種類に分け、それぞれに認められる必要経費や、法律で定められている一定の控除額を差し引いて所得を出します。
個人の所得の種類は以下の10に分けて考えます。
給与所得 | 給料・賞与などの所得 |
---|---|
事業所得 | 事業で得る所得 |
利子所得 | 預貯金や公社債などの利子で得る所得 |
配当所得 | 株式の配当や投資信託の収益分配などで得る所得 |
不動産所得 | 不動産の地代、家賃、権利金などで得る所得 |
譲渡所得 | 事業用の固定資産や家庭用の資産(不動産、ゴルフ会員権、株券など)を売却して得た所得 |
山林所得 | 5年を超え所有していた山林を立木のまま、あるいは伐採して売った所得 (土地ごと売った場合は土地の部分は譲渡所得) |
退職所得 | 退職によって得た一時所得 |
一時所得 | クイズの賞金、満期生命保険金などの所得 |
雑所得 | 年金や恩給など公的年金、非営業用の貸金利子、原稿料や印税、講演料のほか、上の9つの所得に入らない所得 |
一方、法人の場合は収入を種類ごとには分けず、すべての収入を合計した上で経費を差し引いてから利益を出して、税金の計算を行います。すなわち、事業で得た収入も不動産を売却して得た収入も一緒に計算し、またそれらにかかった経費についてもひとまとめにして税額を算出します。
なお、法人の法人税率は、資本金の額や所得によって違っており、以下のようになります。
普通法人の法人税の税率 | |||
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法人の種類(資本金) | 課税所得 | H28.4.1以降 | H30.4.1 |
中小法人(1億円以下) | 年800万以下の部分 | 19%(15%) | 19%(15%) |
年800万を超えた部分 | 23.40% | 23.20% | |
中小法人以外の普通法人(1億円以上) | 23.40% | 23.20% | |
※( )内の税率は、平成31年(2019年)3月31日までの間に開始する事業年度について適用される税率です。 |
法人が不動産を売却した時の経費処理の仕方
それでは、実際に法人が不動産を売却した際は、どのように考え処理していくかを見てみましょう。
売却した日はいつとするか
法人が不動産を売却した日はいつにしたらいいのでしょうか。
税務上、法人の不動産の譲渡日は、原則として不動産を引き渡した日ですが、特例として不動産の売買契約を締結した日でもいいとされています。
どちらも同じ事業年度内であれば問題ありませんが、売買契約の締結日後に年度末を迎え、新しい年度に引き渡しの日が来る場合、どちらを譲渡日とするかで法人の利益や税金が変わってきますので、しっかり検討して売買交渉する必要があります。
不動産売却時の消費税について
個人が不動産を売却する場合、消費税は非課税となりますが、法人では課税されます。
ただし、すべての法人に消費税が課されるわけではなく、「基準期間」といって2期前の事業年度の課税売上高が1000万円を超えている法人に対してのみとなります。
また、法人所有の不動産売却の場合でも土地売却のみなら非課税となっており、ビル売却やマンション売却など土地と建物を一緒に売却する場合は、建物のみに消費税は課せられます。
たとえば、5000万円の不動産を売却した際、土地が3000万円、建物が2000万円の場合、建物の2000万円に対して消費税8%がかかりますので、消費税は160万円となります。
しかし、通常は売却物件が土地と建物の場合、それぞれに値段が付いていることはなく、大抵はまとめていくらかで表示さています。これを後から土地の値段と建物の値段に分ける場合、トータルの金額から土地と建物の固定資産税評価額の割合で分ける方法がよく使われます。
もし、法人が2000万円の建物を売った場合はその8%で160万円が課税されるわけですから、決して安い金額ではありません。2期前の課税売上高で課税されるかどうかが判断されるということですので、この点を考慮して不動産売却を考える必要があります。また、今後、消費税が10%に値上げされますので、不動産売却を考えている法人はその時期も考慮しておくことが大切です。
なお、不動産の売却価格を表示する場合には、消費税を含めるか含めないかは自由となっています。
売主である法人は、消費税を自分で負担しているわけではありません。不動産を購入した買主から預かったお金を買主に代わって国に納めているだけですので、節税を意識しながらもきちんとした処理を行いましょう。
その他、不動産売却にかかる諸費用については、消費税の課税対象になるものと非課税になるものがあり、以下のようになっています。
課税されるもの | 仲介手数料、繰り上げ返済手数料、司法書士依頼料 |
---|---|
非課税のもの | 抵当権抹消の登録免許税 |
仲介手数料は売買成立後に不動産会社に支払うもので、売却代金(取引額)に対して何%と不動産会社ごとに決めており、媒介契約を結ぶ際に提示されます。ただし、この仲介手数料は宅地建物取引業法で上限額が定められているので、それを超えることはありません。
仲介手数料の上限 | |
---|---|
売却金額 | 報酬金額の上限 |
200万円以下の部分 | 取引額の5% |
200万円を超えて400万円以下の部分 | 取引額の4% |
400万円を超えた部分 | 取引額の3% |
この際の取引額とは消費税込の金額ではなく、物件そのものの価格(税抜価格)のことです。売却する不動産が土地だけの場合であれば、土地は非課税ですのでそのまま仲介手数料を計算できます。しかし、土地と建物の場合、土地はそのまま計算できますが、建物は消費税分を差し引いて税抜き価格にしてから計算することになります。
勘定科目と仕訳のしかた
法人の場合、不動産は貸借対照表では有形固定資産として帳簿価格(簿価)が計上されています。不動産売却をして、売却価額が売却時の簿価=売却原価を上回った場合の売却益の処理は固定資産売却益で、またマイナスになった場合の売却損は固定資産売却損で処理します。
5000万円で不動産を売却し、契約時に500万円を手付金として受け取ったあと、残金4500万円を引き渡し日に受け取った場合の仕訳を例に考えます。
なお、土地の帳簿価格3000万円で、建物の帳簿価格は1800万円、売却年の期首からの減価償却費が100万円とし、引き渡し日を不動産の譲渡日とします。
この場合、不動産売却益(固定資産売却益)は300万円となります。
仕訳 | 借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|---|
売買契約締結時 | 普通預金 | 500万円 | 前受金※1 | 500万円 |
減価償却 | 減価償却費※2 | 100万円 | 建物 | 100万円 |
引き渡し時(譲渡時) | 前受金※3 | 500万円 | 土地 | 3000万円 |
普通預金 | 4500万円 | 建物 | 1700万円 | |
固定資産売却益 | 300万円 |
※2建物については売却した年の期首から売却日までの減価償却を行います。
建物の期首の帳簿価格1800万円-減価償却100万円=1700万円で、1700万円が売却時点での帳簿価格となります。
※3売却時に前受金の精算をします。
法人の不動産売却で節税ができる?
個人の不動産売却では、保有期間が5年超の「長期譲渡所得」と5年以下の「短期譲渡所得」では、保有期間が長い方が税率は低くなります。また、2019年末まではマイホームを売却した時の譲渡所得が3000万円以内であれば譲渡所得課税はかからないなどといった制度がありますので、こうした制度を賢く利用すれば節税することができます。
一方の法人の不動産売却の場合は、個人と同じような節税対策はできませんが、法人だから可能な節税の方法もあります。
法人は1事業年度のすべての利益額から損益額を差し引いた課税所得に法人税率が課税されて法人税額が決まります。したがって、法人が不動産を売却して利益が出ても損をしても、他の事業と損益計算が合算できるというメリットがあります。
ここでは、法人が不動産売却でできる節税についてご紹介します。
役員退職金で売却益を節税する
不動産を売却して売却益が出た時は、その売却益を他の所得に分散させて法人税額を下げる節税方法があります。たとえば、役員退職に合わせて売却をして、その売却益額の分を役員退職金に充てることで節税することができます。この場合、勤続年数が5年以下の役員ですと退職所得税の優遇措置が受けられないため、勤続年数5年以上の役員を対象とする必要があります。
新規物件を購入して節税する
不動産売却して利益が出た場合、同じ年に新規物件を購入してその減価償却費を経費に計上することで、売却による利益を減らして節税対策をすることができます。
新規に物件を購入する場合、なるべく短期間で減価償却費が計上できることが重要で、法定耐用年数が短い木造物件なら、減価償却の期間が短く年間の減価償却費が多くなって節税効果が高まります。
設備投資で節税する
太陽光発電装置などの設備投資をした場合、普通の減価償却資産にプラスして減価償却費を計上できる「即時償却」の制度「生産性向上設備投資促進税制」があります。この制度は、不動産売却益が出た場合の節税対策として知られていましたが、平成29年3月31日で廃止されました。
しかし、新たに「中小企業経営強化税制」と名称を変えて、中小法人(原則資本金1億円以下)が機械等を取得した場合、取得価額の全額が経費になる「即時償却」の制度が2019年3月末まで延長されています。これを利用して設備投資をすれば売却で得た利益を減らせ、節税効果を得られます。
低額譲渡に注意
不動産会社を介して第三者に売却した場合は、適正な取引として認められますが、社内で役員に売却する場合などは、売却価格が安くなることがあります。その売却金額が時価(適正価格)から離れすぎていると、低額譲渡とみなされて、役員にも法人にも差額分に対して税金が余計にかかってしまう場合がありますので注意が必要です。