不動産登記の名義変更は、不動産売却のほか、離婚、生前贈与、相続などさまざまな状況で行われています。それぞれケースで必要になる書類や注意事項などについて説明します。
不動産登記と名義人とは
ここでは、不動産登記とその名義人について説明します。
不動産登記
不動産登記とは、土地や建物など不動産の物理的な現況はどうなっているか、また誰のものであるかの権利関係を公示する、つまり広く知らせるために作られた登記簿に記録(登記)することをいいます。マンションなど区分所有の例外はありますが、土地と建物はそれぞれに独立した登記簿があります。
この不動産登記は、一般に登記所で行われます。登記所とは、エリア毎に定められている法務局、地方法務局、その支局や出張所などの機関のことをいいます。
不動産登記はなぜ必要なのでしょうか。
たとえば、不動産売買では、契約する前に正しい権利関係を調べておく必要があります。
きちんと調べずに不動産を購入してしまうと、ニュースで時々話題になる「地面師」による詐欺に遭う可能性もあります。
地面師とは、他人の土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額のお金をだまし取る詐欺師のことです。登記簿を契約前にきちんと確認することで、この詐欺被害はかなりの確率で防止することができます。
登記簿は住民票などと違って、誰でも手数料を払えば閲覧でき、また記載事項を公的に証明した登記事項証明書を入手することができます。
不動産の名義人
一筆の土地または一個の建物に関する登記記録において、不動産に関して所有権・賃借権・抵当権などの権利を有する者として記載されている者のことを「登記名義人」といいます。
※一筆とは登記簿上で土地の1単位のことです。
不動産の名義人とは、登記簿に不動産の権利者として記載されている人のことをいいます。所有権の登記名義人のほか、抵当権の登記名義人など、それぞれの権利に対して登記名義人がいます。
一般的には所有権の登記名義人=所有者となりますが、いろいろな事情で登記名義人が所有者とは限らないケースもあります。たとえば、所有者が亡くなって遺産相続が行われる予定だが、相続人の間で遺産分割の話し合いが進んでいないため、登記名義人は亡くなった人のままになっている場合などがあげられます。
次からはさまざまな不動産の名義変更(所有権移転登記)について説明します。
不動産売買取引での名義変更について
不動産売買取引での名義変更手続きは、代金の決済と引き渡しが行われる日に司法書士立ち合いの元で行われるのが通常です。
不動産売買取引での名義変更の手続きに必要なものは、以下の通りです。
売主
- 登記識別情報通知(登記済権利証)
- 印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
- 固定資産評価証明書(名義変更する年度分)
- 本人確認資料(運転免許証など)
買主
- 住民票(期限なし)
- 本人確認書類(運転免許証など)
その他
- 売買契約書
- 売買が行われたことがわかる書類(領収書など)
- 登記簿謄本
- 登記申請書
- 司法書士への委任状(売主、買主2通)
売主・買主が用意するものは、主に本人であることを証明する書類です。特に、売主は自身が不動産の所有者本人であることを証明するために不動産の権利証などの書類が必要となります。その他の部分は、不動産会社の担当者、または司法書士が用意しますが、委任状など署名捺印を求められるものもあります。
いわゆる権利証は、以前は登記申請書の写しに登記官が「登記済」と押印したものを所有者に返還していたため、その登録済証を権利証と呼んでいました。
現在は、書類ではなく電子化されて管理されていますので、最近不動産登記をした不動産に権利証は存在せず、12桁の秘密の数字による登録識別情報を登録名義人に通知しています。この登記識別情報通知が権利証にかわるものとなっています。
なお、不動産売買において所有者移転登記は、売主にまだ住宅ローンが残っている場合は、そのローンを一括返済してローンの抵当権をはずさなければ行えません。
しかし、誰もがローンを一括返済できるとは限りません。このような場合は、不動産を売却した代金を受け取る決済・引き渡しの日に、代金の入金が確認され次第、ローンを一括返済して、抵当権抹消の手続きを登記移転と同時に司法書士に依頼するという方法を取ります。
抵当権抹消登記に必要な書類
- 登記識別情報通知(登記済権利証)
- 登記原因証明情報(ローンを完済したことを証明する金融機関発行の書類)
- 司法書士への委任状
- 登記申請書
なお、慣習として、この所有者移転登記にかかわる登録免許税や司法書士への報酬は買主が負担、抵当権抹消登記に関する登録免許税や司法書士への報酬は売主が負担することとなっています。
離婚での名義変更について
離婚による財産分与で、不動産を夫から妻へ、あるいは妻から夫へ不動産を譲る場合も名義変更が必要となります。
財産分与
財産分与は、夫婦が結婚生活の中で協力して築いてきた財産を、離婚する際に精算して相手に分配することをいいます。
離婚には協議離婚・離婚調停・審判離婚・裁判離婚の4つの方法がありますが、日本人のほぼ9割は、協議離婚で離婚するといわれています。協議離婚は、夫婦で話し合いをして離婚を決め、役所に離婚届を提出することで成立する離婚のことです。
財産分与では、その話し合い内容、取り決めした内容を協議離婚書や財産分与契約書などで残しておかなければなりません。
離婚の際の不動産名義変更
離婚による財産分与で不動産を譲る、譲られることが決まったら、登記の名義変更を行います。離婚届を出し、協議離婚書や財産分与契約書に不動産を譲ると記載があっても、公に認められるためには名義変更をしておかなければなりません。
名義変更に必要なもの
- 登記識別情報通知(登記済権利証)★
- 印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)★
- 住民票(期限なし)☆
- 戸籍謄本(離婚届けが提出されたことがわかるもの)
- 固定資産評価証明書(名義変更する年度のもの)
- 離婚協議書、財産分与契約書(財産分与の内容がわかるもの)
- 本人確認書類(運転免許証など)★☆
★譲る側、☆譲られる側のものが必要
離婚時の名義変更には登録免許税がかかります。また、離婚の財産分与で不動産譲渡する場合、基本的に贈与税はかかりませんが、不動産取得税は課税されます。ただし、不動産取得税は結婚生活の間に購入した不動産については軽減されます。
気をつけたいのが、住宅ローンが残っている不動産を財産分与で名義変更する場合です。住宅ローン契約書に名義変更は銀行の承諾が必要という記載がある場合、金融機関の承諾を得なければなりませんが、金融機関が認めない場合もありますので財産分与の方法を決定する前に確認が必要です。
遺産相続・遺贈での名義変更について
遺産相続・遺贈で土地を取得した場合も、名義変更が必要となります。
国税庁は、1996年1月1日から12月31日の間に亡くなった人から相続や遺贈で財産を取得した人の相続税申告状況を発表しています。
これによると、同期間中被相続人(亡くなった人)の数は約131万人で、この中で相続税の課税対象となったのは約10万6千人でした。これを割合で見ると、全被相続人のうち、約8.1%が課税対象となったことがわかります。
課税対象となった相続財産の金額の合計は14兆7,813億円で、被相続人1人あたりで計算すると1億3,960万円でした。
さて、この相続財産の金額の構成比を見てみると、土地の相続が一番高く38.0%、続いて現金・預貯金等31.2%、有価証券14.4%の順となっています。
相続と遺贈のちがい
被相続人(亡くなった人)の財産を法律に定められた相続人が引き継ぐことを相続といい、遺言によって誰かに遺産を譲ることを「遺贈」といいます。「遺贈」の相手は法定相続人でもそれ以外の人、団体であっても構いません。
このように遺産で土地を相続する人は多く、それだけ頻繁に遺産相続・遺贈による名義変更は行われています。相続・遺贈による名義変更には以下のような書類が必要です。
被相続人(亡くなった人)
- 戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍
- 住民票の除票(または戸籍の附票)
※出生から死亡まで連続するよう全て。
※登記簿上の住所及び本籍地の記載があるもの。
相続人(相続・遺贈される人)
- 戸籍謄本(法定相続人全員分)
- 住民票(新しい名義人のもの)
その他
- 固定資産評価証明書
- 相続関係説明図
- 遺産分割協議書と協議書に捺印のある全員の印鑑証明書
- 遺言書、検認調書
※名義変更の年度のもの。
※戸籍謄本など原本返却に必要なため。
※法定相続分以外で名義変更する場合
※遺言がある場合
相続・遺贈で取得した不動産の名義変更は、実は義務ではありません。登記簿上は故人のままでも違法ではなく、いつまでに名義変更しなければならないという期限もないのです。
しかし、名義変更をしないでおくと、デメリットがあります。
長年名義変更せずに放置していた後に土地売却する必要が生じても、名義人以外が売却することはできないため、所有者であるのにすぐには売却できません。その時点で慌てて名義変更しようとすると、相続当時の法定相続人全員の書類と印鑑が必要となります。しかし、時間が経っているために、なかなか手続きに必要な書類が揃わない場合があります。
また、当時の法定相続人の誰かが亡くなっていると、その子どもなどに相続の権利が引き継がれており、数次相続(相続の相続)が発生して相続人が増えてしまうなど、手続きがさらに面倒になります。相続したら、早めに名義変更をしておく方が得策です。
生前贈与での名義変更について
国税庁によると、1996年1年間の課税対象となった遺産の合計14兆7,813億円に対して、税額の合計は1兆8,681億円でした。これを課税対象となった被相続人約10万6千人で割ると、1人当たり1,764万円が課税されたことになります。
ここで確認しておきたいことは、相続税の基礎控除についてです。
基礎控除額=5000万円 +(法定相続人の数×1000万円) でしたが、
1997年1月1日からは
基礎控除額=3000万円+(法定相続人の数×600万円)となりました。
※配偶者については相続税が大幅に軽減され、全遺産の2分の1か億6,000万円のどちらか高い金額まで非課税になります。
たとえば、法定相続人が3名いれば、1996年までは5000万円+(3×1000万円)で8000円まで基礎控除がありましたが、1997年からは3000万円+(3×600万円)で4800万円までとなりました。
相続税率は累進課税ですので、一度に相続する資産が多額であればあるほど、その税率は上がります。基礎控除額が減れば、その分課税対象となる遺産が増えて、税率も上がります。
相続税が多額になることが予想される場合は、贈与税がかかるとしても生前贈与で先に名義を変更して、遺産額を減らしておくという方法を取るケースもあります。
相続で自分が亡きあとに遺贈するのではもめてしまうことが予想される場合は、生きているうちに贈与してしまうというケースもあります。
生前贈与による名義変更には以下のような書類が必要です。
贈与する人
- 登記識別情報通知(登記済権利証)
- 印鑑証明書(3ヶ月以内のもの)
贈与を受ける人
- 住民票(期限なし)
その他
- 固定資産評価証明書
- 贈与契約書、贈与証書
※名義変更の年度のもの。
※贈与がわかるもの
贈与税の税率は高いので、じっくり検討する必要があります。夫から妻へマイホームやマイホーム資金を贈与する場合、妻の内助の功を評価して控除が受けられる「おしどり贈与」などの特例もありますので、こうした制度を上手に利用して節税する方法を探してみましょう。