「今は都会に住んで働いていて、居住する自治体に住民税を納税しているが、自分が子ども時代を過ごしたふるさとにその一部を納税できないか…」そんな問題提起から生まれたのが「ふるさと納税」です。
このふるさと納税の全額控除の上限額が、不動産売却をすることで上がる場合があることをご存じでしょうか。ここでは、不動産売却とふるさと納税についてご説明します。

ふるさと納税とは

ふるさと納税は、「納税」と名前がついていますが、実際には納税ではなく「寄付」に当たる行為です。自分の暮らしている自治体以外の自治体へ寄付をすると、翌年自分の住んでいる自治体に収める住民税が減額される制度を利用して、2008年に新しく創設されたのがこのふるさと納税です。
ふるさと納税の理念は、
ふるさと納税で『地方創生』~ふるさと納税で日本を元気に!
というものです。

総務省のふるさと納税ポータルサイトには3つの大きな意義があると書かれています。
まず1つ目は、納税者が寄付先を選択できるので、国民ひとりひとりが税金の使い道について考えることができ、納税の意義を意識する機会になるということ。2つ目は、育ててもらった地域や応援したいと思う地域に対して、目に見える形で力になれる制度であること。そして3つ目は、自治体がふるさと納税をしてもらうために、地域のあり方を見つめ直して、自治体間の競争が生まれ、地域の魅力をアピールできる自治体へと変わっていけるということです。

ふるさと納税はただ寄付をして、その分の税金が減るというだけではありません。寄付の御礼として、自治体から返礼品をもらえるという特典があります。
寄付をした自治体が、その地域の特産品などを返礼品として送ってくれるのです。
寄付をする人は金額に応じて、カニや鮭、イクラなどの海産物をはじめ、牛肉や豚肉、お米、果物、野菜、乳製品…など地域色豊かな返礼品から、好きなものを自分で選択できるようになっています。

ただし、この返礼品により、制度発足の目的とは少しずれた状況も生まれています。
ふるさと納税のコンセプトは、「今住んでいる自治体に納税している一部を、自分が生まれ育ったふるさとに納税する」のはずでした。しかし、今や豪華な返礼品目当てに全く縁もゆかりもない自治体に納税している人が増えているのです。ふるさと納税の利用者を総務省発表の資料で見ると、年々増えていることがわかります。

全国のふるさと納税受入件数および受入金額総計/総務省
年度 受け入れ件数 受け入れ金額
平成20年度 53,671件 8,139,573,000円
平成21年度 56,332件 7,697,723,000円
平成22年度 79,926件 10,217,708,000円
平成23年度 100,861件 12,162,570,000円
平成24年度 122,347件 10,410,020,000円
平成25年度 427,069件 14,563,583,000円
平成26年度 1,912,922件 38,852,167,000円
平成27年度 7,260,093件 165,291,021,000円
平成28年度 12,710,780件 284,408,875,000円

このため、ふるさと納税で少しでも寄付金を多く集めたい自治体は、地域に関係ない人気の返礼品を用意するなど、自治体同士の返礼品競争という思わぬ問題も出てきています。
一部の自治体では、地域とは関係のない海外のお酒や家電などを返礼品に加えているケースが見られたり、寄付に対する返礼品の割合(還元率)が異常に高かったりする問題が起きています。
地域の魅力で競争するはずが、返礼品の豪華さで競争する事態になっているのです。

これを受けて総務省では、返礼品を地域の特産物に限定したり、寄付金に対する返礼品の金額割合を決めたり、ルールを守らない自治体の名前を公表したりといった対策を講じようとしています。

ふるさと納税の流れとその上限額とは

ふるさと納税をする人が増えれば、本来そこ住んでいる人から入ってくる住民税が減ることになります。それは自治体にとって、大きな痛手です。
そこで、ふるさと納税では、所得に合わせて全額控除できる年間上限額(控除限度額)が設けられています。

ふるさと納税で自分が選んだ自治体に寄付すると、寄付した金額のうち2,000円を越えた部分について、この上限額までは所得税と住民税から原則として寄付した額全てが控除されます。
たとえば、扶養家族が配偶者のみの年収700万円の給与所得者の場合、上限額の目安は86,000円となっています。もし、この人が80,000円のふるさと納税を行うと2,000円を超える部分である78,000円が、所得税と住民税から控除される仕組みとなります。
このふるさと納税の控除を受けるには、ふるさと納税を行った翌年に確定申告を行わなければなりません。しかし、平成27年(2015年)4月1日以後のふるさと納税に関しては、確定申告が必要ない給与所得者等は、ふるさと納税をした自治体数が5つ以内であれば、ふるさと納税を行った各自治体に申請手続きをすれば確定申告がいらなくなる「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が適用されるようになりました。

ふるさと納税の流れ

ふるさと納税ワンストップ特例制度を利用したふるさと納税の流れ
  1. 応援したい自治体を選択

    ※確定申告が不要な給与所得者などで、ふるさと納税を行う自治体の数が5つ以内の場合はこの制度を利用できます。

  2. ふるさと納税を行う

    ※ふるさと納税を行う際に、自治体にふるさと納税ワンストップ特例の申請書を提出します。

  3. 翌年の住民税の控除

    ※ワンストップ制度では所得税の減額は行われませんが、その分も含めて翌年の住民税が安くなります。

ふるさと納税ワンストップ特例制度の対象ではない、またはふるさと納税ワンストップ特例を申請しない場合の流れ
  1. 応援したい自治体を選択

  2. ふるさと納税を行う

    ※受領書(ふるさと納税したことを証明する書類)が発行されるので確定申告まで保管しておきます。

  3. 確定申告を行う

    ※翌年3月15日までに居住する地域の税務署で行います。

  4. 所得税から控除

    ※源泉徴収などで納めた税金が還付される場合もありますが、所得やその他の控除などで個人差があります。

  5. 翌年の住民税の控除

    ※翌年度の住民税が安くなります。

全額控除されるふるさと納税額(年間上限)は収入と家族構成で違い、その大まかな目安は以下の表のとおりです。

収入 家族構成と納税上限額(単位:円)
※自己負担額2,000円含む。高…高校生、大…大学生
独身または共働き 夫婦 共働き+子1人(高) 共働き+子1人(大) 夫婦+子1人(高) 夫婦+子1人(大) 共働き+子2人(高大)
300万円 28,000 19,000 19,000 15,000 11,000 7,000
500万円 61,000 49,000 49,000 44,000 40,000 36,000 28,000
700万円 108,000 86,000 86,000 83,000 78,000 75,000 66,000
900万円 151,000 141,000 141,000 138,000 132,000 128,000 119,000
1000万円 176,000 166,000 166,000 163,000 157,000 153,000 144,000
1500万円 389,000 389,000 377,000 373,000 377,000 361,000 361,000
2000万円 564,000 564,000 552,000 548,000 552,000 536,000 536,000
2500万円 849,000 849,000 835,000 830,000 835,000 817,000 817,000

不動産売却でなぜ上限額が上がるのか?ポイントは取得費不明の不動産

不動産を売却して売却益(譲渡所得)が出ると、所得税と住民税がかかります。この譲渡所得の計算は以下のようになっています。

譲渡所得の計算
譲渡所得=売却金額-(取得費用+譲渡費用)

譲渡所得とは、売却金額から取得費用と譲渡費用を引いて残る利益のことです。ここでいう取得費用とは、単に購入金額だけではなく購入やリフォームなどにかかった諸経費も含まれます。また、譲渡費用は売却にかかった諸経費のことです。

もしこの計算で譲渡所得が出ず、売却損となった場合は税金がかかりません。たとえば、マンション売却で、3,000万円で購入した物件を2,000万円で売却したというような場合、明らかに取得費の方が多く利益は出ていませんので、所得税も住民前も課税されません。

一方、譲渡所得が出た場合は、所得税と住民税が課税されますが、ここでふるさと納税を利用することで、住民税や所得税の控除を受けることができ、その上返礼品ももらえます。

この不動産売却とふるさと納税の組み合わせは、先祖伝来の土地売却や長い間持っていた不動産の売却をする場合にさらに力を発揮します。

先祖伝来の不動産売却でふるさと納税がお得なわけ

代々伝わってきた不動産を売却する場合などは、購入金額などの取得費がわかりません。記録が残っていない、残っていても時代が古くて現代とは明らかに物価が違うような場合が多いので、その救済策として、以下のような取り決めがあります。

売った土地建物が先祖伝来のものである場合や買い入れた時期が古く取得費がわからない場合、あるいは実際の取得費が売った金額の5%相当額を下回る場合は、取得費の額を売った金額の5%相当額とすることができる。

このようなケースでは、譲渡費用をプラスしても売却金額から差し引ける金額は抑えられることが多く、譲渡所得がその分増えて納税額も上がってしまう傾向があります。
しかし、譲渡所得が増えた分、ふるさと納税の上限額も上がりますので、ふるさと納税を利用することがある意味節税対策となります。

譲渡所得が出てしまったらふるさと納税を利用してみよう

譲渡所得が出ると所得税や住民税も増えてしまいますが、同時にふるさと納税の上限額も上がります。ふるさと納税を利用することで、住民税や所得税の控除が受けられ、さらに返礼品ももらえるのですから、お得感がありますね。
不動産の譲渡に関連するその他の特例もありますので、どれが自分にとって一番お得になるかを試算してみるといいでしょう。

ふるさと納税の上限額を上げるために不動産売却をするという人はいないと思いますが、もし不動産売却で思わぬ譲渡所得が出てしまったら、ふるさと納税を節税対策の1つとして考えてみましょう。